高野山の歴史 HISTORY

高野山の開創は平安時代初期の弘仁7年(816)のこと。弘法大師空海が嵯峨(さが)天皇から許可を賜り、真言密教の道場の造営に着手します。壇上に金堂(講堂)はじめ諸堂を建立し、金剛峯寺(こんごうぶじ)と名付けました。その後20年間、空海は高野山を中心に真言密教の教えを広め、承和2年(835)、3月21日にご入定(にゅうじょう)されます。伽藍(がらん)造営は2代目弟子の真然(しんぜん)に引き継がれました。ご入定から86年後の延喜21年(921)、醍醐(だいご)天皇から「弘法大師」の諡号(しごう)を賜ります。以後、弘法大師空海は高野山奥之院(おくのいん)に身をとどめ、人々を救済し続けるという信仰が広まっていきました。ご入定からおよそ1200年経た今も奥之院の御廟では大師に1日2回のお食事が捧げられています。
鎌倉時代以降、高野山は幕府の庇護を受け、武士の信仰を集めます。また、高野聖(こうやひじり)らにより庶民にも信仰が広まり、宗派を超えた霊場として発展。幾多の火災や落雷による被災、戦国の兵火、明治時代の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)など多くの苦難を乗り越え、昭和21年(1946)、金剛峯寺を総本山とする高野山真言宗が設立されます。平成16年(2004)には「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録されました。
参拝に向けて MANNERS
服装について
高野山は標高が高く、夏場でも涼しい土地。気温変化に対して調節しやすい服装がおすすめです。派手すぎる服装や極端な肌の露出は避けたいもの。聖域やお堂に入る時には脱帽しましょう。
徒歩での移動も多いので、ヒールやサンダルは避け、歩き慣れた靴で。履き物を脱いで上がるお堂や施設もあり、脱ぎ履きしやすい靴が便利です。また、必ず靴下を履いていきましょう。
写真撮影のマナー
金剛峯寺、壇上伽藍の金堂や根本大塔などお堂の中、霊宝館の展示室内は撮影禁止です。お寺ではご本尊の仏像は撮影禁止が多いことを覚えておきましょう。奥之院では御廟橋から先は弘法大師を祀る聖域となり撮影禁止。撮影できるのは橋を渡る手前までです。また、許可なく僧侶にカメラ(スマホ)を向けるのはできるだけお控えください。
心構え
高野山は全体が金剛峯寺の境内です。仏像や仏画は信仰の対象ですから、周囲を気遣い、静かにお参りください。仏様のお名前や役割を知っておくと心豊かなお参りになるでしょう。仏様の真言を小声で唱えるのもおすすめです。真言がわからない場合は、弘法大師のご宝号「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と唱えるとよいでしょう。
高野山は自然の豊かなところ。聖域の花や草木を愛で、野鳥など生き物を慈しむ心を持ちたいものです。さまざまな命はすべて仏様であるとの弘法大師の教えにも通じ、清々しい参拝になるでしょう。
仏様のお働きと
祈り方
WORSHIP
壇上伽藍
壇上伽藍は神聖な場所。入り口にあたる中門の前や、お堂内に入る時には合掌一礼すると丁寧です。聖域内は禁煙。ペット同伴や自転車の乗り入れは禁止です。根本大塔や金堂などお堂内は撮影禁止です。
各お堂の前では脱帽し、正面で合掌一礼、じっくり祈りたい人は左右の空いている場所で。ご本尊の真言を3回、「南無大師遍照金剛」を3回唱えるとよいとされますが、真言がわからない場合は、「南無大師遍照金剛」のみでもかまいません。
ろうそくや線香など仏様は香りを好まれます。ろうそくは必ず種火からつけ、後からお供えする人が置きやすいように奥から順番に立ててください。線香の場合は真ん中から立てます。
根本⼤塔

(胎蔵)大日如来(だいにちにょらい)
宇宙の真理を仏格化した密教の根本的な仏様。智恵の光明は一切を照らし、慈悲の心は永遠に不滅といわれています。真言は「アビラウンケン」

阿閦如来(あしゅくにょらい)
大きな丸い鏡が万物をありのままに映し、すべてを照らすような智恵、清らかな心を表す仏様。真言は「オン アキシュビヤ ウン」

宝生如来(ほうしょうにょらい)
あらゆるものは平等であるという智恵を表す仏様。真言は「オン アラタンノウ サンバンバ タラク」

阿弥陀如来(あみだにょらい)
すべてを正しく認識する智恵を表す仏様。観自在王如来ともいわれます。真言は「オン ロケイ ジンバラ アランジャ キリク」

不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)
諸仏が衆生を導き、なすべきことを成就させる智恵を表す仏様。釈迦如来と同体とされます。真言は「オン アボキャシッディ アク」
⾦堂

普賢延命菩薩(ふげんえんめいぼさつ)
寿命を延ばし福徳を授ける仏様。六本の牙をもつ四頭の白象の上の蓮台に座しています。真言は「オン バザラ ユセイ ソワカ」

不動明王(ふどうみょうおう)
五大明王の一尊で中心的な存在。右手には剣を、左手には説法を聞かない者を縛る縄を持ちます。真言は「ノウマク サンマンダ バザラ ダン センダ マカロ シャダ ソワタヤ ウン タラタ カンマン」

金剛薩埵(こんごうさった)
大日如来の教えを引き継いだ仏様で、真言密教では重要な役割を担っています。両手に密教の法具を持ちます。真言は「オン バザラ サトバアク」

金剛王菩薩(こんごうおうぼさつ)
金剛薩埵とともに、阿閦如来の四親近(ししんごん)菩薩のうちの二菩薩といわれます。真言は「オン バザラ アランジャ ジャク」

降三世明王(こうさんぜみょうおう)
三世とは過去、現在、未来。足下にヒンドゥー教のシヴァ神とその妃ウマーを踏んでいます。真言は「オン ソンバニソンバ ウン バザラ ウン パッタ」

虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)
広大無辺の智恵を持ち、記憶力を増大させる仏様。真言は「ノウボ アキャシャキャラ バヤ オンアリキャ マリボリ ソワカ」
⾦剛峯寺

金剛峯寺での参拝作法
境内は多くの法会が行われる信仰の場。飲食やペット同伴は禁止です。脱帽でお参りください。スマホや携帯電話は電源オフかマナーモードにしましょう。
主殿、別殿、新別殿など建物内は基本的に撮影禁止です。仏像はもちろん、ふすま絵なども撮影できません。廊下や庭園は撮影可能です。ふすま絵や曼陀羅、受付近くの天然杉は貴重なものです。決して手を触れないようお願いします。
拝観受付を済ませた後、まず大広間に進み、奥の持仏間にお祀りされている持仏ご本尊、弘法大師坐像に参拝しましょう。ご本尊は秘仏ですので厨子に向かって拝礼します。
高野山真言宗参与会は弘法大師空海の教えを伝え広める活動を行う高野山真言宗の公式団体です。会員限定の研修会(勉強会)や講習会に参加できるなどの特典があり、参与会特別待遇券や参与会員袈裟、参与記章バッジなどの授与のほか、月刊高野山が発送されます。
参与会公式サイト奥之院

御廟橋から先は霊域。御廟橋の前で脱帽し、合掌一礼して橋を渡ります。写真撮影はここから禁止です。スマホや携帯の電源もオフにしましょう。参道は左側通行です。
燈籠堂に着いたら、塗香(ずこう)で清め、御廟に向かって礼拝を。こちらでご祈祷やご供養を申し込むこともできます。
御廟では左右にロウソク1本ずつ、線香人束ずつをお供えした後、正面で一礼し、左右の空いているところで参拝を。般若心経と「南無大師遍照金剛」を唱えるとさらに丁寧です。大声を出さず静かにお参りください。
御廟では弘法大師が今も深い瞑想を続け、人々を救済し続けているという信仰があります。そのためお大師さまに二度のお食事をお供えする「生身供(しょうじんく)」がおよそ1200年もの間、毎日続けられています。
水向地蔵

御廟橋のたもと、玉川沿いに地蔵菩薩(じぞうぼさつ)はじめ、不動明王(ふどうみょうおう)、弥勒菩薩(みろくぼさつ)、観音菩薩(かんのんぼさつ)など諸尊が立ち並んでいます。参詣者が御廟にお参りする前に、こちらの仏様に水を手(た)向ける(捧げる)風習があります。水を手向けることで、先祖や亡くなった人の冥福を祈ったり、御廟へお参りする前に自らの心身の穢(けが)れを清めるという意味もあります。かつては橋がなく、はきものを脱いで川に入り、禊(みそぎ)をして御廟にお参りしていました。
寺院の
ご本尊について
GOHONZON


常喜院(じょうきいん)
子安延命地蔵菩薩(こやすえんめいじぞうぼさつ)
古くから子宝、安産、長寿、延命に霊験あらたかとされ、信仰を集めてきました。正式には木造地蔵菩薩坐像といい、寄木造り、玉眼(ぎょくがん)で、鎌倉時代中期、院派の仏師の作と伝わります。重要文化財。


西禅院(さいぜんいん)
阿弥陀如来(あみだにょらい)
阿弥陀如来は極楽往生を叶える、西方極楽浄土の教主とされる仏様。浄土真宗の宗祖、親鸞(しんらん)聖人が当院のご本尊、阿弥陀如来の御宝前で100日の修行をしたと伝わります。


普門院(ふもんいん)
金剛界大日如来(こんごうかいだいにちにょらい)
真言密教の根本の仏様。金剛界大日如来は胸前で智拳印(ちけんいん)(左手人差し指を立て、その指を右手で握る)を結んでいます。普門万徳(ふもんまんとく)の大日如来と呼ばれ、その名が当院の名の由来となりました。


福智院(ふくちいん)
愛染明王(あいぜんみょうおう)
愛欲を悟りにかえる仏様。福徳円満所願成就の霊仏として信仰されてきました。総欅(けやき)造りの荘厳な本堂に祀られています。福智院の名も愛染明王が幸福と智恵を授けてくれることから。西国十七愛染霊場第札所です。


不動院(ふどういん)
不動明王(ふどうみょうおう)
炎を背負い、激しい怒りの形相で人を救い導く仏様。「お不動さん」の名で親しまれています。五大明王の一尊で密教では中心的な仏です。当院の不動明王は秘仏ですが、弘法大師空海による彫像と伝わります。


光明院(こうみょういん)
阿弥陀如来(あみだにょらい)
本堂にはご本尊の阿弥陀如来立像を中心に、向かって左に観音菩薩(かんのんぼさつ)、右に勢至菩薩(せいしぼさつ)を配し、阿弥陀三尊としてお祀りしています。内陣の壁画と合わせて阿弥陀来迎図を表しています。


報恩院(ほうおんいん)
金剛界大日如来(こんごうかいだいにちにょらい)
大日如来は真言密教の象徴である仏様。本堂にご本尊の金剛界大日如来坐像を中心として、向かって右側に弘法大師像、左側に不動明王像をお祀りしています。


安養院(あんにょういん)
金剛界大日如来(こんごうかいだいにちにょらい)
灌頂造りの荘厳な本堂には金剛界大日如来を中心に、脇侍として不動明王と愛染明王をお祀りしています。大日如来像は重要文化財で、高野山霊宝館に安置されています。


南院(なんいん)
浪切不動明王(なみきりふどうみょうおう)
弘法大師空海が自ら刻んだと伝わる立像。大師が唐からの帰国の際に船上で嵐に遭い、この不動明王に祈願したところ、光を放ち嵐を切り鎮めたと伝わります。秘仏で6月28日のみのご開帳。重要文化財。


大圓院(だいえんいん)
阿弥陀如来(あみだにょらい)
ご本尊の阿弥陀如来立像は第八世住職の滝口入道が、恋人横笛の菩提を弔うために自ら彫ったと伝えられています。横笛が死後、鶯(うぐいす)となって入道に会いにきたと伝わることから「鶯の弥陀」と呼ばれています。